『センス・オブ・ワンダー』。たまたま、SNSで目にしたこの本をなんとなく手にとってみたところ、すっかり心をつかまれてしまいました。
それは、私が歳を重ねて、花鳥風月を愛するようになったからなのか、はたまた、デジタルに囲まれた忙しい日々に疲れを感じているからか。いろいろと思うところがありました。
今回は、最近、私が強く心惹かれた「センス・オブ・ワンダー」という概念についてご紹介したいと思います。
今回紹介する本『センス・オブ・ワンダー』
『センス・オブ・ワンダー』の単行本は、1996年に刊行されていますが、私が手にとったのは2021年刊行の文庫版です。川内倫子さんの写真つきの美しい本で、旅行やおでかけのお供にもいいコンパクトサイズなのもいいなと思いました。
著者レイチェル・カーソンについて
レイチェル・カーソンは、アメリカのベストセラー作家であり、海洋生物学者でもありました。もともとは文芸の道を志していたそうで、本書の詩的な表現にもうなずけました。
1962年に刊行された『沈黙の春』で、当時、人体への影響はないとされていた農薬(DDT)の危険性や自然への影響を訴え、世界的な影響を与えました。
「センス・オブ・ワンダー」とは
本書では「センス・オブ・ワンダー」を「神秘さや不思議さに目を見はる感性」と訳しています。
レイチェル・カーソンは、甥のロジャーとともに、自然の中で生命の神秘や美しさに触れる瞬間の喜びをエッセイに綴ることで、この「センス・オブ・ワンダー」を表現しました。
たとえば、夜の海に夜行性のカニの姿を探しに出かける楽しみや、森を散策し「おもしろいもの」を見つけるよろこびなどです。そして、その発見のよろこびや胸のときめきをわかちあうこともまた、よろこびであること。
そうした生活の中で、ロジャーは自然と、植物や貝の名前を覚えていったといいます。
そして、「センス・オブ・ワンダー」が子どもの成長にとって重要な力であることを説くとともに、このようにも述べています。
「知る」ことは「感じる」ことの半分も重要ではないと固く信じています。
大人は、「そこにいる鳥の名前も知らないのに、子どもに自然のことについて教えることなんてできない」と嘆く必要はなく、ただ、子どもと一緒に自然の神秘や驚きを感じて分かち合えばいいのだ。そうすることで、子どもにうまれつき備わっていた「センス・オブ・ワンダー」を新鮮に保ち続けることができる。
すると、大人になってからも、「つまらない人工的なものに夢中になることなどに対する、かわらぬ解毒剤になる」のだといいます。
私には、次の一節がとくに強く印象に残りました。
自然のいちばん繊細な手仕事は、小さなもののなかに見られます。雪の結晶をひとひらを虫めがねでのぞいたことのある人なら、だれでも知っているでしょう。
(中略)
森の苔をのぞいて見ると、そのながめは、熱帯の深いジャングルのようです。
子どもの頃、確かに私の中にもあった「センス・オブ・ワンダー」の記憶がよみがえり、虫めがねや顕微鏡の先にある、精密な世界に心奪われたことを思い出しました。
そして、虫めがねを持って「苔の中のジャングル」を探しに行きたい気持ちがむくむくとわいてきました。
忙しい日々で、心の余裕を失くしている大人にこそ、「センス・オブ・ワンダー」が必要なのかもしれないと思います。
レイチェル・カーソンが残したメッセージ
『沈黙の春』が書かれた当時、殺虫剤のDDTは人体には無害なものとして広く使われ、住宅地で空中散布が行われていました。今では信じがたいことですが、それに警鐘を鳴らしたのがカーソンでした。
人間の都合で巻いた毒は、食物連鎖を通じて人間にもかえってくる。
そもそも人間は自然の一部であり、地球は誰のものでもない。
DDTの危険性や自然への影響を訴えた『沈黙の春』は大きな反響を呼んだ一方で、彼女には心ない中傷の言葉も向けられたといいます。それでも、彼女が伝えたそのメッセージが、のちに環境への意識やあり方を世界的に大きく変えるきっかけとなりました。
『沈黙の春』の執筆中、カーソンはすでにガンを患っていたそうですから、まさに彼女が命がけで伝えたメッセージだったのです。
その後、彼女は「センス・オブ・ワンダー」を広めたいと、残りの人生をかけて筆を取りましたが、出版を見ることなく56歳でこの世を去りました。のちに、友人たちによって出版されたのが本書『センス・オブ・ワンダー』なのです。
カーソンはこのような言葉を残しています。
地球の美しさと神秘を感じとれる人は、科学者であろうとなかろうと、人生に飽きて疲れたり、孤独にさいなまれることは決してないでしょう。たとえ生活のなかで苦しみや心配ごとがあったとしても、かならずや、内面的な満足感と、生きていることへの新たなよろこびへ通ずる小道を見つけだすことができると信じます。
地球の美しさについて深く、思いを巡らせる人は、生命の終わりの瞬間まで、生き生きとした精神力をたもちつづけることができるでしょう。
センス・オブ・ワンダーは生きる力とよろこびを与えてくれる言葉だと感じました。
自然や生命への興味や知的好奇心が、生きる原動力になるとともに、自然や他の生き物へのリスペクトにつながると思うのです。
そして、この言葉の通り、彼女の心も生命の終わりの瞬間まで生き生きとしていたんだと思います。
おわりに
私たち人間は、ついつい自分たちを特別な存在だと思ってしまいますが、本書を通じて、人間も自然の一部なのだということを改めて感じました。スマホを置いて、自分が自然の一部であることを思い出しに出かけてみよう!そんな気持ちになりました。
現代社会では、人工物や化学物質を完全には避けられないのが現実ではあります。
カーソンも、「化学物質や殺虫剤を厳禁だと言っているわけではない」という立場を表明しながら、その使い方の問題や、代替案の検討を訴えたわけです。
極端な自然志向ではなく、地球全体のことを考えた、賢い選択が求められているのです。
センス・オブ・ワンダーを思い出すことは、自分が自然の一部であることを思い出すことでもあります。それが、自分以外の生き物の命を尊重し、環境に配慮した賢い選択につながっていくのだと思います。
私はこれから先も、レイチェル・カーソンが命を尽くして残したこの言葉を、大切にしていきたいと思います。
参考書籍:『レイチェル・カーソン』
レイチェル・カーソンについてもっと知りたい方はこちらもおすすめです。彼女が生きた時代背景や人柄も見えてくると思います。
